平成15年度第1回台東区中核病院運営協議会報告
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更新日:2010年10月22日
平成15年度第1回台東区中核病院運営協議会(平成15年9月10日開催) 報告
台東区中核病院運営協議会より、評価・検証の結果について第3回目の報告が、平成15年10月1日に区長に提出されました。
評価・検証の結果
(1)病院運営の経済性について
平成14年度の病院運営については、病院が開業した平成14年2月から平成15年3月までの14か月までの運営を対象とし、この期間の全体収支と区の支援対象となっている政策的医療部門に関する部門別原価計算による収支について、評価、分析をした。その内容は次のとおり。
1.全体収支については平成14年度において、開業後14か月で約10億円の医業損失が発生した。その要因としては、
1) 開業当初は、病院としての法令基準に則った人員体制を備える一方で、移転に伴い入院・外来とも患者数が少なく、また看護師の配置が遅れるなど入院を制限せざるを得なかったことなどにより、営業上の収益が少なかったこと
2) 公租公課や減価償却費など、移転や開設時など当初に影響の大きい経費がかかったこと
などが考えられる。病院からは、今年度以降、このような初期的投資・経費の影響は軽減し、また今後患者数の拡大に伴い収益が増加し、収支は徐々に改善されるであろうとの見通しが示されている。
2.今回の評価・検証は区の支援する病院としてその運営の効率性がいかに達成されているかについて、対象とするものである。そこで、病院の移転、新病院の立ち上がり期間という現況を踏まえて、病院の過去5年間(平成10年度から平成14年度まで)の財務分析を行い、この期間を通じて病院運営の経済的効率性が発揮され、財務の健全性が認められるか否か、さらにその指標が自治体立病院の平均値と比較して望ましい状態にあるか否か等について、評価・検証が行われた。その結果の要約は次のとおり。
- 固定資産等の資本効率の面においては、民間活力によることの経済的効率性が発揮されていることが認められた。それは資本の節約が実現された結果によるものと考えられる。今後の稼動状況の向上によって、効率性はさらに向上するものと考えられる。
- 収益性、生産性、安全性については、いずれも経済的効率性が発揮されていることが認められなかった。収益性については、特に開設当初の赤字率が大きいことが問題の重大さを示している。ただし、この点については、事業の体制が全面稼動には至っていないと推測される状況下での指標であることに留意する必要がある。生産性に関しては、特に人的資源による生産性が低く、「人員当り労働生産性」の適正化をいかに図るかが喫緊の課題である。安全性に関しては、病院整備、開設を直接の原因とする「借入金依存率」「自己資本比率」「経営安全率」等の指標が悪化しており、楽観視はできない状況である。財政基盤の強化をどう具現化するか、将来の収支見直しも踏まえて、実践的な改善方針を明確にすることが望まれる。
- 過去5年間の主要指標推移については、特に平成10年度から平成12年度までは横ばいであった「経常利益」が、病院整備を契機に、平成13、平成14年度と赤字を大きく拡大し、その結果「売上高経常利益率」は悪化の一途を辿った。これらの傾向が長期間に及ぶと事業の健全な成長が危ぶまれるものであり、したがって経済的効率性が発揮されているとは認められない。
- 以上の所見は、事業立ち上げの過渡期において、事業体制が最も不安定ならざるを得ないさまざまな経営上の影響のもとにあったという事情に対する配慮を踏まえた上で解釈することが重要である。
- 政策的医療の民間活力の活用による確保を目的とした医療資源の先行投資が、現状ではいまだ十分にはその成果を発揮していないということが、本来実現したはずであろう病院の効率性を阻害した可能性はある。そのことを立証するためには、政策的医療の実施に伴う収支構造をさらに詳細に明確化することが不可欠であり、部門別原価計算の手法による普遍性、論理性、客観性を可能な限り満たした分析によって、不採算医療の実態を把握する必要がある。
3.支援対象医療(政策的医療)の収支について
平成14年度において、開業後14か月で支援対象医療(政策的医療)は約3億4千9百万円の医業損失が発生した。(うち区の補助額は1億1千7百万円)
その他の支援対象部門については、以下のとおりである。
・緩和ケア 36,849千円の黒字。
・ICU ICUとしての設備やスタッフを備え、質的・機能的には十分に運営されているが、今回は損失額を計上しない。
・災害時拠点医療 費用としてヘリポート専用エレベーターの保守委託経費分などがあるが、今回は損失額を計上しない。
しかし、今回病院から作成・提示された部門別原価計算手法の精度上の問題から、病院全体の採算性の良し悪しが、そのまま各部門の個別の収支に影響を与えてしまっているという可能性も否定できない。すなわち、区の事業支援対象である政策的医療部門から発生した損失が、その医療部門の性質上当然かかるはずの不採算性に起因するものなのか、それとも病院運営全体の不採算性に起因するものなのかがより明確になるよう、さらに詳細な分析手法を確立し、今後この協議会で報告、提示することが望まれる。
(2)中核病院としての課題への対応について
1.小児医療への取組みについて
小児科については、病院が単独で夜間・休日に対応できる人員体制を確保することは困難である。特に小児専門医の不足する台東区の状況を考慮すれば、限られた医療資源を中核病院に集中させ、効果的に活用していくことが必要である。
その意味から、区が実施する「台東区休日こどもクリニック」事業を始めとした、区全体の小児初期救急システムの充実にとって病院の果たす役割はきわめて大きい。今後、「台東区医療連携推進会議」に設置された「小児医療部会」に中核病院として主体的に参画し、可能な具体的方策について積極的な検討を先導することが期待される。その中で、特に小児専門医の増員、平日準夜間に向けての診療時間の延長、かかりつけ医との連携に基づく入院体制の拡充などについては、引き続き努力されることを切望する。
また一方で、救急患者に対する初動対応等を適切に行うことが、区民の小児医療への信頼向上につながることを十分に認識すべきである。
2.女性専門外来の検討について
女性専門外来は、いわゆる「性差医療」の観点から女性の心身を総合的に診療する機能として、近年、社会的に要請の高まってきたものである。その根底にある考え方は、「患者中心の医療」の実現に向けた医療の新たな方向性に沿うものと考えられる。また、その実践レベルの機能としては、いくつかの段階や方法があり、台東区の中核病院としてどのような役割を担うべきか、引き続き検討が必要である。
今後、女性専門外来に対する区民のニーズや実施した場合の採算性等を調査しながら、保健所の相談機能やかかりつけ医におけるプライマリケアとの連携を十分考慮し、中核病院として確保すべき女性専門外来機能のあり方や開設の可能性について、十分な検討を継続していくよう期待する。
3.病院へ寄せられた利用者からの声について
『利用者(患者やその家族)の満足度を最大化する』という視点については、利用者から寄せられた生の声に対して病院がどのように耳を傾け、対応するかが重要である。その対応が単に場当たり的なものにとどまらず、それらの中から構造的な問題点を的確に把握・抽出し、今後の病院運営にフィードバックできるよう、利用者から寄せられた声を適切にマネジメントに生かすしくみを今後構築していくべきである。
なお、本協議会では、病院の運営を「将来に向けてどのようによりよいものにできるか」という建設的な視点から、病院だけでなく地域社会全体においても検討を要する内容を含む問題(例えば、喫煙や患者のプライバシー保護、バリアフリー対応等の問題など)について、引き続き協議の対象としていく。
4.その他
療養型病床の入退院については、さまざまな課題がある。医療的必要性ではなく、在宅で介護する者がいないなどの理由から入院するという、いわゆる『社会的入院』への対応や、区民に広く利用されるために病床の回転率を高めることに病院が努めることは当然であるが、しかし病院は、まず患者をお引き受けして、入院期間が長期化したときには、患者や家族の意向を尊重しながら、転院先・退院先を紹介することがその努めであることを再認識すべきである。それぞれの患者の条件に沿って、医療相談室をはじめとする病院のスタッフが適切な紹介先を探すことに、より一層努めていただきたい。
区長はこの報告を受け、平成15年10月9日、永寿総合病院に対し「本報告の趣旨に沿って理念の実践に努められるように」と提言しました。
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